2013年05月06日

福田麻由子さんの村上春樹論(その2)


『村上春樹を知りたい。』(学研パブリッシング)の6〜7ページに小説家・村上春樹の2つの作品(『海辺のカフカ』『アンダーグラウンド』)についての福田麻由子さんの感想が出ています。

【引用ここから↓↓↓(福田さんの発言は太字にしました)】
Haruki Novels On My Mind 
福田麻由子(女優)

初めて読んだ村上春樹さんの小説は『海辺のカフカ』でした。当時、私は14歳。主人公のカフカ君が15歳で、年齢的に同じぐらいだったので読んでみたいなと思ったんです。その頃は、今よりもすごく世界が狭(せま)くて――それは物理的な意味でもそうで、たまにお仕事で都心に来る以外は、毎日通学する中学校までの20分ほどの何もない道が世界の全てでした。そんなときにこの作品を読んで、大げさかもしれないけど、「世界ってもっと大きいのかもしれない」と感じたんです。最後の<目覚めたとき、君は新しい世界の一部になっている>という一文を読んだ瞬間(しゅんかん)、「わーっ!」となって、少しだけれど、確実(かくじつ)に世界の見え方が変わっていたのを覚えています。その頃の私は、大人になるのがすごく嫌(いや)なのに、そのくせ大人がいないと何もできない自分への苛立(いらだ)ちがあって、微妙(びみょう)なところでモヤモヤとしていました。でも『海辺のカフカ』を読んで、「あ、私は自分自身で動(うご)こうとしていないんだ」と気づいたんですね。こんな狭い世界で自分はどこにも行き場がないと思い込んでいたけれども、実際には行き場なんていくらでもあるんだって――カフカ君は遠くまで旅をしていますけれど、実際に場所を動かなくても、ちょっと見方を変え、自分から一歩踏み出していけば新しい世界が見えるのかも、と勇気づけられました。
それ以来、『海辺のカフカ』は何度も読み返しているのですが、読むたびに新たな発見や感慨
(かんがい)があるのも、この作品のすごいところです。最近、読み返したときは、「暴力(ぼうりょく)というのはどこから来るんだろう?」というようなことを考えました。
この世には、どうやっても逃げられない力や避
(さ)けられない暴力があると思うんです。そのときに「これは避けられないから」って諦(あきら)めるのか、それとも、そういった場面でも何かできるのか――答えはないかもしれません。でも、「ある」って信じたい。カフカ君やナカタさんにもそう信じていて欲しい。ジョニー・ウォーカーとのやりとりの場面は、何度読んでも涙が出ます。ナカタさんが暴力に立ち向かう姿――それはすごく弱い力だけど、大きな意味があったと思うし、あの場面を読んでいるとすごく悔しい気持ちになるけど、その悔しさというのは、私たちが普段(ふだん)生活していくうえでずっと持ってなきゃいけないって思うんです。生きていくうちに、そういう悔しさをいつしか忘れてしまって、流されてしまうのはやっぱりダメなんだなあ、って。<力>に抗(あらが)ったり立ち向かったりすることは必ずできると信じたい、そんなふうに思いました。

小説ではありませんが、『アンダーグラウンド』も思い入れのある作品です。私は1984年生まれなので、「オウム事件」のことは大まかなレイアウトしか知りませんでした。そういう状態で、事件に様々
(さまざま)な形で関(かか)わった人たちのインタビューを読んで、同じ出来事でも立場が異(こと)なればこんなに見え方が違(ちが)うのかと驚(おどろ)きました。<地下鉄サリン事件>がものすごく大きな出来事としてずっと残っている方もいれば、正直(しょうじき)、そこまでではない、地下鉄に乗(の)り合わせていて、混乱(こんらん)に巻き込まれたけど、そのまま過ぎ去ってしまった出来事と捉(とら)える方もいる。起こっている事件はひとつだし、その<時>というのはひとつしかないのに、いろんな人の目線(めせん)で事件を見るとまるで姿が違(ちが)って見える。それを読んで、村上春樹さんは<ひとつしかないオウム事件>ではなく、<それぞれの世界で起こったオウム事件>を描きたかったのではないか、そう感じたんです。オウム事件に限らず、この世に起こるすべての出来事は、極端(きょくたん)に言うと、関わった「一人ひとりの世界」の中で起きているのだから、見え方は全部違って当然。でも、そうであるのならば事件や事故の中心にある人やものって一体何なんだろう?――すごく簡単に言えば、「いったい、誰(だれ)が悪いんだろう?」ということをすごく考えました。直接関(かか)わっていないから、と世の中で起きた事件や事故と自分とを切り離(はな)して考えていてはいけないと思うようになったんです。誰にだって、<大きな暴力>に負けてしまう可能性はあるのですから。私たちは日々いろんな世界とその場その場で向き合っているけれど、きちんと向き合えてないもの、そして時間の流れの中で失われていくものもたくさんある。その「<失われた場所>にあった自分」に思いを馳(は)せることの大切さを、村上春樹さんの小説は教えてくれます。だからこそ、同世代の皆さんにも読んでほしい。本当にそう思います。

ふくだ・まゆこ
ドラマ、映画などさまざまな分野で活躍。若手演技派女優として注目される。最新出演作は『桜、ふたたびの加奈子』(4月6日公開)。5月には舞台『いやむしろわすれて草』(青山円形劇場)、8月には、日仏合作映画で主演した『フレア』のフランス先行公開が控えている。
大の読書家で、好きな作家は川上未映子、村上春樹、町田康、金原ひとみほか。
(文・構成= 門賀美央子)
posted by mayuko at 13:15| 本に出た福田さん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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